iPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作ってシート状にした「心筋細胞シート」を重い心臓病の患者に移植する手術を行ったと、順天堂大学と大阪大学のグループが発表しました。今後、さらに多くの施設で手術を行って安全性や有効性を確認し、保険が適用される治療法としての承認を目指すとしています。
これは12日、順天堂大学の田端実主任教授と大阪大学の澤芳樹特任教授らが記者会見で発表しました。
それによりますと、順天堂大学では先月中旬、iPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作りシート状に培養した「心筋細胞シート」を、虚血性心筋症という重い心臓病の60代の男性患者の心臓の表面に貼り付けて移植する手術を行ったということです。
手術後の経過は順調で、患者は近く、退院する予定だとしています。
iPS細胞を体のさまざまな臓器や組織の細胞に変化させて、移植する治療法の実用化を目指す臨床研究や治験が各地の大学や研究機関などで行われています。
■目の治療
iPS細胞から作った組織を移植する臨床研究は、2014年に神戸市の理化学研究所などのグループが世界で初めて行いました。
「加齢黄斑変性」という重い目の病気の患者にiPS細胞から作った目の網膜の組織を移植し、その後、神戸市立神戸アイセンター病院でほかの目の病気の患者に対する臨床研究も行われています。
また、2019年には、大阪大学などのグループが、重い角膜の病気の患者にiPS細胞から作った角膜の組織をシート上に培養し、移植する臨床研究を行いました。
■神経の治療
京都大学のグループは2018年、パーキンソン病の患者の脳にiPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植する治験を行い、新たな治療法としての承認を目指しています。
また、慶応大学のグループは、脊髄を損傷した患者にiPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植する臨床研究を進めていて去年、初めて患者に移植する手術を行いました。
■心臓の治療
大阪大学のグループは、重い心臓病の患者の心臓にiPS細胞から作った心臓の筋肉の細胞をシート状に培養した「心筋細胞シート」を移植する手術をおととし初めて行いました。
この手術は将来、一般的な治療になることを目指し、安全性や有効性を確認する治験として行われ、今回、大阪大学以外で初めて、順天堂大学で行われ、今後、さらに多くの施設で実施するとしています。
また、慶応大学のグループは、重い心臓病の患者の細胞にiPS細胞から作った心臓の筋肉の細胞を球状に加工して注入する臨床研究の準備を進めていて、大学発のベンチャー企業でも治験の準備を進めています。
■血液の治療
京都大学のグループは、おととし、血液の難病の患者にiPS細胞から作った血小板を投与する臨床研究を行いました。
また、京都市のバイオベンチャー企業もことし、血小板が少なくなった患者にiPS細胞から作った血小板を投与する治験を始めています。
■免疫細胞の治験
理化学研究所などのグループはおととし、頭頸部がんの患者にiPS細胞から作ったナチュラルキラーT細胞という免疫細胞の一種を移植し、安全性や有効性を確かめる治験を行っています。